クリスマスの夜

それはクリスマスの夜だった。
稽古が終わり、いつものように帰りの地下鉄に乗った。
車内を見渡せばカップルが多い。
某栄の駅でどっと人が降りて車内に雪崩れ込む。
その隙に端から3番目の空いた席に座った。
座って揺られているうちに睡魔が襲ってくる。
目を閉じているうちに浅い眠りに入っていく。
それでも寝過ごしてしまう事はなかった。
降りる駅の二つほど前で目が覚めたのだ。
ふと顔を上げると、二つ左に座っていた
女の子の視線を強く感じた。
〜あれ、よだれを垂らしているのを笑われているのか?〜
そう思い口を拭いたが涎は垂らしていない。
では何でニヤニヤされているのか?
彼女の目の前には彼氏らしき男の子が立っている。
その男の子もニヤついていた。
僕の隣にはサラリーマンが座っていたのだが、
ふと視線を向かいのガラスに移すと、
そのサラリーマンの苦笑する顔が写ってた。
その時に甘い囁きの声がかすかに聞こえてきた。
見れば一番端っこに女性が座っていて
男性が女性の顔に覆い被さるようにしていた。
その瞬間、全てがわかった!
車中でキスをしているカップルを見て苦笑していたのだ。
向かいの座席には加家族連れが座っていた。
お父さん、お母さん、妹(たぶん低学年)、そして
小学校高学年と思う可愛らしいお嬢ちゃんが座っていた。
このお嬢ちゃんの目が釘付けになっていた(笑)
それも凄い目つきだった。
食い入るように、いやしっかりと焼き付けるかの
ように、目を一杯に開いて見ていた。
カップルの女性からは相変わらず囁く声がする。
場をわきまえない馬鹿カップルの顔が見たくなった。
自分が降りる駅に着いたので、立ち上がり何気なく
顔を見ようかと思ったらそのカップルも立ち上がった。
同じ駅で降りるみたいだ。
立ち上がったカップルを見て笑えてきた。
どうみても高校生だったからだ。
しかも冴えない感じがした。
両方とも背は僕の肩までぐらいしかなかった。
男の子の顔は小さくまだあどけなさが見えた。
精一杯に着飾って髪をセットしていた。
女の子は長いロングの黒髪が顔を覆い、顔が
よく見えなかった。
初恋だろう。
周りが良く見えていないようだ。
地下鉄の車中で我慢が出来ない程、燃えている。
結局カップルはバスの時刻表を食い入るように
見つめていたので、それ以上詮索するのをやめた。



聖夜だった。
しかも確か雪が降り始めたのではなかったか。
幼い恋は続くであろうか?
あのカップルでは続かないだろう。
オッさんになった僕はそう感じた。
子どもの行動とはいえ、
一寸、、、頭が足りないかなあ〜(苦笑)