逞しく生きる

いま僕ら夫婦が住んでいるマンションは某巨大自動車メーカーの販売店の裏側にある。
 その販売店は2階に整備工場を備えている。
その高さは、ちょうど3階に住む僕らの部屋にあたる。
だから風向きによっては、たまに油の匂いがしてくる時もある。
 整備工場の朝は決まって9時15分頃にラジオ体操が始まり、一日がスタートするらしい。
ラジオ体操の曲が平日は毎朝流れてくる。
 そんなある日の事だが、突然「フェ〜」というフニャけた声が聞こえてきた。
テレビで観る芸人の小島よしお氏が音楽に乗って叫ぶ「フェ〜」と言う奇声に音がそっくり!
一瞬「あれ?小島よしおがいるの?」と思ったほどだった。
 その声は明らかに自動車販売店の方から聞こえてくる。
 暫くするとまた「フェ〜」と聞こえてきた。
 一体、どんな時にこの言葉を叫んでいるのであろう?
 車をバックさせる時の合図の声だろうか?
 車を定位置に止める時の合図の声だろうか?
 想像がつかない。

 こんな偽小島よしお氏がいる整備工場だが(笑)、
廊下から何気に販売店の駐車場を見下ろしたら、若い女性がつなぎの整備服を着て働いているのを見つけた。
油に混じって働く仕事だから、完全に男しかいないと決めつけていたので、女性のスタッフを
見つけた時は驚いた!
しかもその女性は、、、車のタイヤを「エイ!」とばかりに担ぎあげてせっせと工場内に運び入れていたのだ。
 この事を妻に言ったら、妻はとっくにこの女性を見つけていたらしく「あたしは知ってたよ!」と返してきた。
 けっして身体が大きい方ではなさそうだが、根性は座っていそうだ。
僕もその後、何回か彼女の姿を見た。そして見かける度に「彼女はきっと軟弱な男は嫌いだろうな」と
余計な事を思ってしまう。そして「親も心配をしているだろうなあ」と思いながら、
「腰痛に気をつけて頑張ってね」と思ってしまう。

 そして今日も出かけに「フェ〜」という声を、また聞いてしまった。