俊幸はモグリ。

 俊幸はこっそりと演劇の世界に潜り込んでいる男です。そんな俊幸はたまに役者になります。そう…たまにね。でも最近は何か役者もね〜となってます。理由は簡単。いま俊幸はもっと人間くさい男の役に挑戦してみたい。自分で言うのもなんだけどさわやかな好青年の刑事はあまりやりたいとは思わない。どちらかと言えば汚職している刑事を演じてみたい。最近少しそう思います。
 俊幸はこっそりと演劇の世界に潜り込んでいる男です。たまに偉そうに中身のない戯曲も書きます。戯曲を書いて思うのは、劇作家は一つ一つ台詞には意味があり、そして脳や感情や経験や思いをギューと絞って生み出しているんだと言うことがわかりました。勿論、簡単にスラスラと書く人もいるでしょうけど、多かれ少なかれ、ギューかそれに近いものだと俊幸は勝手に想像します。だから、台詞を勝手にいじらないで下さいという劇作家の言い分がわかるようになりました。そしてようやく書き上がった台本の出来上がりに対して「ちょっとね〜」と言われると少し腹が立ちます!“わかってるよー俺の書く台本は面白くないけどさぁーじゃあお前が書いてみろ!”でもグッと堪えて笑顔で「そうですねぇーここの台詞をこういう風に変えましょうか?」なんて返事して、あげくに「ここから〜ここまでカットね。こんな台詞はいらないし、これは余分でしょう」とか言われて泣きたくなる事もあります。(実際、涙を溜めたことも・・・)
非常に困るのは俊幸はモグリのくせに言う立場も、言われる立場も体験したことがあるんです。
お互いの言い分が少しわかる・・・。


 この間、妻の佳代子に言われました。「あなたは物書きに向いてない。書くのをやめたら?」
カモメはカモメ、モグリはモグリ、けっして孔雀になれないの。
そう私は大地に影を落として歩く人間・・・。
自分の勉強不足を痛切に感じながら今日も重い足取りで稽古場に向かう俊幸であった。