渋々でしょうか?ベテランの役者達では暑い夏を乗り切れないだろうとの判断をいただき、若手の役者も使う事になりました。しかし誰でも良いというわけではなさそうでした。そこで「一度、顔と声を聞きたい」と云われたのです。それは僕もその通りだろうなあ〜と思いましたよ。だって全然知らない役者に任せるわけにもいかないもんね。そこで早速、劇座の事務所で顔合わせです。でも実はまだこの段階でも僕は割と気楽に考えていました。
 だって最初の台本では本当に博士の役割が少なかったのです。ほとんど音と映像に合わせて手振り身振りで演じていればいい・・・そう思っていました。現に代理店もそう言っていました。ところが、明くる日に呼び出されて報告を受けた内容が「若手では不安があります」だって!。しかも、こちらは単なる顔合わせのつもりでいたのに、しっかりと役者に対してランク付け(5段階評価)されていたのです。
 かつらと衣裳を着て音と映像に合わせてしゃべる、それだけなのに・・・見た目とか声の質とか関係あるのでしょうか?いや〜やっぱり多少関係はあるかも・・・しかし・・・。そこで何を求めているのかを演出に確認をしました。すると「演劇的に」と言い出すのです。更に「機会に負けたくない!生身の人間がやるのだから、血の通った講演会にしたい!」
(おいおい・・・最初の話と随分違うじゃねえか!!!!!)
僕ね〜確かその時に「そんな話の内容は聞いてないです。最初と趣旨が違ってきているのなら何故、前もって話をしてもらえないのですか!」と当たり障りのないように若干、苦情を言いました。

 さて「若手はもう少し稽古をつけたい。それから判断をさせてほしい」と演出家から言われ、この後、数回に渡って稽古をすることになります。
 ところが「あのさ〜この次の稽古の時には、台詞はまだいいとしても、衣裳とか小道具とか各自、持って来るように言って。それでやる気を判断するよ」なんて事を確か言ってきました。そして笑いながら「俺はずるいんだ〜。だってイメージとかもあるしさあ、小道具とか用意するの面倒じゃん」なんてぬかしやがる!僕は腹の中で(確かにあんたはずるいよ!)と叫ばさせていただきました。
 そこで倉庫から博士の衣裳やら小道具やらを用意してもらい、次の稽古に挑んでもらいました。
 この時に「偉い!」と感じたのは・・・劇座の役者たちが台詞を入れて来たことです。そして緊張しながらでもしっかりとそれなりに博士を演じ始めた事に誇りを持ち始めました。
「どうだ〜お前のところの役者よりレベルは高いだろう〜!」僕は演出家を横目で見ながらまたもや腹の中でニヤニヤと叫ばさせてもらいました〜笑〜!
 そんな事とはつゆ知らず、演出家は至って冷静にダメ出しをしております。


 夏が終わった後に正式に契約を交わす事になりました。
 当然、ベテラン俳優を起用するわけですからかなりの報酬を期待したのですがあてがはずれました。
「県の予算が無くて」との説明がありましたが・・・にんじんが2本ばかりでは馬も走りません。。。ど〜やってやりくりをしていいのか困りました。
 この時に「もうこれでベテランだけの登板はムリだと思います。」と代理店側に伝えました。
あとはベテランと若手を含めたローテーションを組み、提示した報酬で納得してもらい乗り切るしかない!
と僕は思いました。

 しかし、全ては思うように進んでくれません。
 冬が近づくにつれて心も寒くなるようなお話が何回かありました。
 それこそ「これ以上はもうムリかも?」と思うような事がです。

 つづく。